翼 [稲葉的詞世界]
作詞家・稲葉浩志が詞中で使用する
「僕ら」という言葉が、全てを雄弁に語ってくれる。
「その時代」における正しさは、現代のものとはやっぱり違うもので、
でも、双方の背景にある「心」はそんなに違わないのかもしれない。
「今」は、愛する人の笑顔を消さぬように必死に生きようと、
そして「その時代」では愛する人の笑顔を守るために、
折りたたむことのできぬ翼をひろげ、敵国へと向かう。
「それ」はたった一人が絶えず持っていた信念ではなく、
「僕ら」みんなが抱いていた、抱かずにいられなかった想い。
国家権力の前に、悪が正へと変容を遂げ、それを鵜呑みにするしかなかった。
今だったら野蛮だと切り捨てられる行為が、当時はその行為こそが
唯一許された愛情表現だったとしたら…。
いやでも、「それ」と戦争を美化することとは次元の違う話なのだ、きっと。
今を生きる「僕ら」は、「彼ら」が戦火に散っていった事実から
何を学んできたのだろうか。そして何を学んでいるのだろうか。
新世紀は、9.11同時多発テロ事件という悪夢のような惨劇で幕を開けた。
報復に躍起になった大国と、それにホイホイと手を貸したアジアの島国。
果たして「今」を「優しい未来」だと、「彼ら」は思ってくれるだろうか。
コメント 0